2010年度版、アップしました。(2011年1月15日)


by lunaluni

マリーナ号・選 2008年度

「輝く奄美の島唄」群山直・編訳(北星堂書店)
「奄美シマウタへの招待」小川学夫(春苑堂出版)
「奄美、もっと知りたい」神谷祐司(南方新社)
「文豪怪談傑作選1・川端康成集」東雅夫・編(ちくま文庫)
「文豪怪談傑作選4・泉鏡花集」東雅夫・編(ちくま文庫)
「文豪怪談傑作選10・室生犀星集」東雅夫・編(ちくま文庫)


 知人がある日、突然に奄美の民謡に夢中になってしまった。ネット
の書き込みもその関係の話ばかり。
 あまり異様なので、彼をそこまで夢中にさせる奄美の島唄とは
どんなものだろうと興味を持ち、CDを取り寄せて聴いてみたら、
これが確かに興味深い音楽であり、ミイラ取りがミイラという次第。
 こちらまで奄美の民謡と、その後ろに広がる奄美群島のなかなか
にユニークな歴史と文化に惹かれて、すっかり奄美ファンとなって
しまった。
 もはや”名瀬”とか”喜界島”なんて奄美の地名を聞けば血が踊り、
スーパーで”奄美特産黒砂糖”など売っていれば必要もないのにうっ
かり購入してしまう始末。
 そんな次第で、奄美に関する文献を漁り南島幻想に耽溺して過ご
した2008年だった。

 「輝く奄美の島唄」は奄美の民謡の歌詞を大量に集め、分類し、
標準語訳と英訳を加えたもの。
 そのようにして島唄の構造を多角的に検証している。島唄分析の
叩き台として貴重な文献といえるだろう。
 太古の歌謡がそのまま姿を変えずに今日に生き残ったような、奄美
の民謡の不思議な魅力の水脈に直に触れるための書だ。

 「奄美シマウタへの招待」は、島唄の歌詞の中から印象的な節々を
ピックアップして、それを切り口に唄の背後に広がる奄美の民俗を
詳細に解説して行く。歌の中から浮かび上がる人々の暮らしと、自然
や神々との交歓。
 すべて1ページごとの一口メモ風構成だから気軽に読み進めること
が出来、島唄を入り口に、楽しみながら相当にディープな奄美の歴史と
民俗を知ることが出来る。

 「奄美、もっと知りたい」は、奄美の支社に転勤となった朝日新聞
の記者が島々を精力的に歩き回り、奄美の歴史や民俗を、これまであ
ったガイドブック的視線よりもさらに深く掘り下げたレポートである。
 顕わにされる伝統と現代、自然保護と開発の間でもがく奄美の姿。
 薩摩藩の奄美領有がもたらした”黒糖地獄”に始まり、収奪と、その
のちの切捨ての歴史である、”本土”と奄美の関係。
 そして作家・島尾敏雄が夢見た、南島より発し、日本の文化すべてを
包み込み、黒潮の恵を浴びて広がって行く”ヤポネシア”の広く豊かな
幻想と、今日の奄美の現実。
 それらを心に止めた上で聴き直す奄美の島唄は、より深い味わいを
持ってこちらに迫ってくる。

 いわゆる”普通の文学界”に属する作家たちの作品の中から、ホラー
風味のある小説を集め、彼らの文学世界を違う視点で楽しんでしまおう
とする”文豪怪談傑作選”のシリーズは、私のように怪談好きには非常
に嬉しい企画である。

 川端康成編は、私が学生時代に読み衝撃を受けた晩年の異様な傑作
「片腕」などを中心に奇怪な手触りのファンタジーを集め、かの高名な
作家が内に秘めていた異形の文学衝動を陽の元に曝す。

 このシリーズでの泉鏡花は、いつもの端正な文体の耽美主義的作家で
はない。自身の心の闇が命ずるままに荒々しく怪を語って飽きることが
ない。なんの容赦もない恐怖の司祭。著者の”パルプマガジン期(?)”
を堪能できる、こいつも異様な傑作集だ。

 室生犀星編。この高名な詩人が怪奇文学の書き手であったこと、実は
これまで知らずにいた。今回、その作品に接してみて、”恐怖と背中合
わせの透徹した哀切な感情表現”という独自の世界に、すっかり引き込
まれてしまった。ときどき、ホラーの世界に出てくるんだよね、こんな
具合にハート・ウォーミング(?)な泣かせる幽霊談ってのが。
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by lunaluni | 2009-01-03 01:04