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2010年度版、アップしました。(2011年1月15日)


by lunaluni

マリーナ号・選 2006年度

 「日本民衆文化の原郷―被差別部落の民俗と芸能」沖浦 和光 (文藝春秋)
 「「悪所」の民俗誌―色町・芝居町のトポロジー」沖浦 和光(文藝春秋

 以前ここで、サンカに関する本を挙げた事のある沖浦氏ですが、もうこの人のものはすべてランクインさせたくなって来ております。今回の2冊は・・・
 賎視され、過酷な歴史を生きて来た被差別部落の人々が生み出し伝えてきた民俗技芸の流れを辿った前者と、遊女や役者など、これまた差別の対象とされた「制度の外」に生きる人々が、不思議な呪力の宿る場所である都市の盛り場「悪所」で咲かせた歌芸の姿を辿った後者。どちらも、寄るべなき民衆が握り締めて生きた一輪の花としての民俗文化と、その様相を描き出す著者の筆の温かさに感嘆。

 「アラーの神にもいわれはない―ある西アフリカ少年兵の物語」アマドゥ クルマ(人文書院)

 冷戦後の西アフリカにおいて繰り広げられる過酷な内戦と、そのなかで兵士として戦う現実に否応なく叩き込まれた少年たちの姿を描く、「アラーの神にも・・・」は、あまりにも悲惨で不条理で愚かしく悲し過ぎて、筒井康隆の「森羅万象、みなドタバタ」の一言を思い出さずにはいられなかった。
 読んでいる最中、これはおそらく小説など書いた事はないが少年兵の現実をおそらくは自身で体験した若者が怒りにまかせて書きなぐった一作だと思っていたのだが、あとがきを読んで、著者がアフリカを代表する70歳過ぎの大文学者であると知り、驚く。老大家に、それまで積み上げてきた端麗な文体を放棄させ、このブラックユーモアに満ちた物語を書かせた、その怒りの重さを思う。

 「狼たちの伝説」五木寛之(光文社)

 人生訓の本ばかり書いている人とのイメージしか、今はないかも知れない五木寛之だけど、強力に時代と切り結んでいた60~70年代の作品のハードボイルド振りは胸ときめくものがあった訳で。当時の、それも、五木が若い頃に身を置いていたショービジネスの裏方社会に題材をとった作品をまとめた短編集が出来上がったので、こいつはぜひ読んで欲しいのである。

 「さよなら絶望先生」久米田 康治(講談社)

 人生のすべてに対して熱狂的に絶望を表明し、敢然として後ろ向きに世を渡る教師、糸色望。彼が受け持つ教室の生徒たちもまた、度を外れた狂気のキャラクターであり、とてつもない世界を現出する「さよなら絶望先生」。やあ、こんな面白いマンガがあったのか。悪夢の上に悪夢を積み上げて哄笑を誘う姿は、”イン・ザ・プール”の伊良部医師の遠縁の親戚かとも。
by lunaluni | 2007-12-24 23:11