2010年度版、アップしました。(2011年1月15日)


by lunaluni

マリーナ号・選 2005年度

 「人、我を大工と呼ぶ」アプトン・シンクレア著 谷譲次 訳 新潮社

 筒井康隆がエッセイで「子供の頃読んだ、史上初のドタバタSF」と紹介していた作品である。今頃になって古書店で手に入れた。昭和5年刊。
 第一次世界大戦後、不況下のアメリカに何故かイエス・キリストが再々光臨し、「富める者、我まことに汝に告げん。持ち物すべてを売りて貧しき者に分かち与えよ」などと教えを垂れて歩くのだが、不況下の労働運動に神経質になっているアメリカ当局に「共産主義の扇動家」と決め付けられ追い回されると言う、皮肉たっぷりの確かに見事なドタバタSFである。
 訳者も、キリストの発言部分のみ、「汝の裁かるる日は近付けり」などと荘重な文語体で訳出する悪乗り振りで、実に痛快な出来上がりとなっている。一読、SFファンとしての”原点”に立ち戻された気分。

 「すぐそこの遠い場所」クラフト・エヴィング商会 ちくま文庫

 ワタクシも寄る年波で、このような胃にもたれないファンタジーが具合がよろしいです。すぐ隣にあるようで絶対に辿りつけない場所を想定し、そんな儚い場所の”現実”を一つ一つ編み上げて行く作業が楽しそうだ。紹介された”その場所”の珍奇な文物は、手に持つとパリパリと乾いた音を立てて、ちょっぴり甘く悲しい風が吹きます。

 「イン・ザ・ペニー・アーケード」スティーヴン・ミルハウザー著 白水社

 もう一つの別世界構築物語。精巧な、いくらなんでも精巧過ぎて現実を大きくはみ出すカラクリ制作に賭ける人形職人の奇妙な遍歴物語は、ねじ回し一本で現実を転覆しようというミルハウザー節全開の快作となった。ゲルマン民族特有の技術屋系幻想小説とでも呼ぶべきか。

 「昭和ジャズ喫茶伝説」平岡正明著 平凡社

 かって青年たちが競ってジャズ喫茶に通っていた時代がある。何をしにって?コーヒーを飲みながらジャズを聴くために。それがどれほど世界とスイングする行為だったか、さあ、これを読んでご覧よ。
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by lunaluni | 2007-12-24 22:18