2010年度版、アップしました。(2011年1月15日)


by lunaluni

マリーナ号・選 2001年度

「M・R・ジェイムス怪談全集1&2」M・R・ジェイムス(創元推理文庫)

我が最愛の怪談作家である。

怪奇小説などという呼び方よりも「怪談」が、やはり合う。それも、瀟洒な怪談とでも呼びたい佇まいだ。しん、と沈み込んだ情景描写と、悠然たる語り口。その中にふと姿を現す、実に生々しくリアルな手触りを持つ「怪異」たちの有り様。
透徹した理性の人である著者が文章に潜ませた、英国流の皮肉なユ-モア感覚も好ま しい。この、時の狭間から顔を覗かせた、埃まみれの、錆だらけの、極上の恐怖を賞味し たまえ、心ある読書人よ!

「怪奇探偵小説傑作選1・岡本綺堂集」岡本綺堂(ちくま文庫)

著者の、優れた怪談作家でもある側面をよくとらえた一冊が出来た。
合理的説明を拒む作 品が多い。三大傑作と言われるものの一つ、「白髪鬼」にしても、因果応報の考えなどで はとらえきれない筋書きであり、何が原因であり、どれが結果なのか判然とせぬままに怪異は現れ、通り過ぎて行く。
怪異は、季節の移ろいや日々の陰り、それらにつれて色を変 え、ふと立ち現れ消えてゆく「気配」の領域に属するなにものか、おそらくそんな語り難 いもので出来ているのだ。

「南洋通信」中島敦(中公文庫)

1941年、南洋庁の官吏として南太平洋の島々へ赴任した若き日の著者が、その地での暮らしの詳細を東京の家族の元に書き送った手紙の数々を、日記形式にまとめた書。赴任 地を廻るうち、「信託統治領」の住人たる現地の人々に、日本の文化を押しつける矛盾に 、いやおうなしに気付いて行く中島青年。
その合間に書かれた、彼が南の島の人々への共 感を込めて描いた、幾つかのスケッチ風の短編。その輝きの傍らで、当時日本が標榜していた「大東亜共栄圏」の理想は、その欺瞞に満ちた相貌を露にしはじめる。

そして・・・ そうするうちにも「日記」の日付けは、ファイナル・カウントダウン、太平洋戦争開戦の日へ向けて着実に進んで行く。

「ノモンハンの夏」半藤一利(文春文庫)

第2次世界大戦前夜、ソ連国軍と「満州国」を警備する日本の関東軍との間で戦われた、 無益な国境紛争の記録。はなはだしく現実認識能力の劣った、思い入れでしか状況を見よ うとしない軍令部の暴走により、関東軍は大量の戦死者を出し、敗走する。が、その事実 は秘せられ、軍令部首脳は責任を問われることもなく、それどころか、その後勃発した太平洋戦争においても軍参謀として重用され、悲劇を拡大することに貢献した。
さらにさらに戦後、その首脳の一人の「戦犯逃れ体験記」はベストセラ-となり、彼は余勢を駆って国会議員にまで成りえたという、後日談!著者自身も、怒り呆れつつ筆を進めているのが分かる。

明らかにされねばならぬ歴史の裏面がある。当年度最激怒本。

「読みなおし日本文学史」高橋睦朗(岩波新書)

「万葉集」巻頭の歌を、巫女が自身と神との唱和として「口寄せ」した言葉のうちから、 神の「唱」だけを抽出したものなのである、とした冒頭の考証から、血の騒ぎを覚えた。そのような「歌」を源流とした我が国古来の「文学」は、だが、古代の日本に進入してきた、進んだ外来文化のもたらした「詩」と「文字」によってその座を追われ、漂泊する。 この「歌」と「漂泊」をキイとして読み直された日本文学の数々は、異様な変容を起こし 、裏面に隠された別種の真実の可能性を語りはじめる。

著者の展開するアクロバティック な論考は知的刺激に満ち、興味は尽きない。
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by lunaluni | 2007-12-21 00:01